第6回 なぜ薬物使用疑惑をスクープにしてはいけないのか

 最後に重要なことを一つ。

 インタビューの冒頭で触れたマスメディアの報道の件だ。

 芸能人などが逮捕され、過剰な報道がなされる時、松本さんのもとで治療中の患者さんでも、再使用してしまう人が増える。その都度、せっかく積み上げてきた回復への道が、?#25991;轆?#21069;の状態に戻ってしまいかねない。場合によって、ふたたび暗い穴ぼこに落ち込んで、彷徨わなければならない人も出てくる。

 それを避けるために、松本さんは、薬物報道のガイドラインなるもののたたき台を作り、今年(2017年)1月に公表したばかりだ。

 報道する側はどんなことに気を使う必要があるのだろうか。

「薬物報道ガイドライン」を公表した国立精神?神経医療研究センターの松本俊彦さん。
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「すごくわかりやすいことを2つお伝えしたい?#20154;激い蓼埂?つは、イメージカットで注射器とか白い粉を出しますよね。あれ、やめてほしいんです。あれを見る?#21462;ⅳ浹幛瑜Δ人激盲?#38929;張ってる覚せい剤依存症の人たち、みんな欲求のスイッチが入るんですよ。だから、著名人が捕まる報道でメディアが騒ぐときに、私の外来の患者さんたち、ばたばたと再使用しちゃってるんですよ。もう本当に、やめてくれよってくらいに毎回、起きます」

 注射器と白い粉の資料映像は超定番で、薬物報道では必ずと言っていいほど目にする。ぼくは20世紀の最後の方に8年間ほどテレビ局に勤務していたが、その頃、すでに確立しており、「覚せい剤?#20426;?#36039;料映像もってこい!」的にすぐに使えるものとして準備されてい?#20426;?

 それが、治療中の患者の再使用スイッチを押してしまう! 言われないと気づかないことだ。なお、この「白い粉と注射器」という演出は、日本独特の覚せい剤乱用とその取り締まりからなるカルチャーが創り出したものらしい。松本さんは、他の国でこの手の資料映像を見たことがないという。

2017年9月号

本誌2017年9月号でも特集「脳科学で克服する依存症」を掲載しています。
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